藤井 智也

移動生活を経て、自分たちの宿をつくり、アーティストとしての活動を続ける。

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Profile:藤井智也(Tomoya Fujii)

1984年生まれの写真家。2016年に、アムステルダムにある写真美術館 foamがオーガナイズするUnseen Photo Fairにて「Unseen Dummy Book Award」に入賞。2016、2017年には、日本で最も先鋭的なフォトアワードとして名高い「TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD」に入選を果たすなど、近年徐々に注目を集めている。主な活動に「NEW VISIONS #03」 (G/P gallery Shinonome)、「Raw」(CIY)など。
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Profile:noisy_eye / 高橋ちかや(Chikaya Takahashi)

イラストレーター。第21回グラフィック 1_WALL 都築潤奨励賞受賞。以下の店舗にて都築潤奨励賞受賞作の作品集販売中。
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Kuri Apartment

香川県高松市中心部にあるゲストハウスです。ご予約はInstagramのDMかairbnbサイトよりお願いします。
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藤井さんと高橋さんとは、2020年5月にMOTIFで開催したカワイハルナさんの個展の時に、たまたまお会いしました。その時に、お二人が宿を運営されつつ、ご自身でもアーティスト活動を続けられているということを知り、その活動や考え方についてお聞きできたらと思いました。

──世界や日本での移動しながらの生活を経て、自分たちの好きな宿の仕事を始めた。

松田:お二人で宿を始めるきっかけは何かあったんですか?
藤井:以前、僕はリゾートホテルで働いていて。ちかや(=高橋)とは、その職場で出会いました。彼女は、オランダの学校に行くお金を貯めるために夏の時期だけ働いていて、その時に話していてもすごく話が合って。
高橋:二人とも海外に行くのが好きだったので。日本に帰ってきてはすぐに海外に出て、日本に帰ってきてはすぐに海外に出て、ということを繰り返していました。数年間、海外に行って、とにかくいろんなホテルには泊まっただろうと(笑)。そこで自分たちも、宿というものが好きだったので始めてみようかと思いました。ちなみに、高松に定住するまでは、3ヶ月以上同じところに住んだことがなくて……。

松田:えー!!!そうなんですね(笑)。
藤井:軽トラに全ての荷物を積み込んで日本を巡ってました。行政が用意してくれている体験住宅のようなものがあるので、いくらか負担すれば一軒家を借りられる。そこではWi-Fiが利用できるので仕事もできた。そうやって1年弱ぐらい日本を移動していたような気がします。
高橋:自分たちの全てが車の中に詰まってる、という感じでした(笑)。

高橋 ちかや

藤井:埼玉に住んでいた時に、近くのアパートにすごくかわいい子猫がいて飼い始めることになった。それで猫のために香川に定住することに決めました、猫は移動を嫌がるので(笑)。
高橋:日本に戻る前は、台湾とかオーストラリアとかヨーロッパなどを、3ヶ月おきぐらいにビザの関係で移動していました。この生活は、しんどいなと感じ始めていた矢先に猫が現れましたね(笑)。

藤井:真面目な理由も話すと、定住して作業をするようなスペースもほしいなと思っていました(笑)。
高橋:あたり前ですけど、プリンターやスキャナーとかの機器がないので、絵を描く作業がしにくくて。いつも車の中に積んで行くわけにもいかないし……。
藤井:現実的に集中して何かをするのは難しいと判断しましたね。そのタイミングで地元の高松に良さそうな物件があったので、じゃあここに拠点を設けてみようと決めました。
高橋:高松に移住して、初めて3ヶ月以上同じところに住んで、今が1年ぐらいになるので記録更新中ですね(笑)。
藤井:僕も同じところでずっと住むのは久しぶりですね。ホテルに勤めていた後からは、ずっと移動の生活だったので。

Kuri Apartment 内装

松田:高松の街の印象はどうですか?
高橋:高松はすごく住みやすい街で。あまりにも小さすぎない、というところが良いですね。地方を移動して住んでみましたけど、あまりに小さい街だと文化に触れ合えないので。私は、ちょっとしんどかったです……。高松は、それなりの規模があって文化にも触れ合えるし、東京や大阪などにもアクセスしやすいので良いと思います。

藤井:移動の生活のことで言うと、新鮮味はありましたけど。3ヶ月しかないから、人と深くつながりを持てる機会は少なかったかもしれないです。
高橋:私たちみたいに自営業をやっている人って、そこまで出会いが多いわけじゃない。そこで短期スパンだと出会いは難しいと感じました。
藤井:やっぱり、生活の中に人との出会いを求めてるようなところがあるので、長く住んで何かをやって行く。その中で、つながりを持てるような拠点をつくることが、今は合っている気がします。
高橋:ここのビルの人たちとも、つながりはありますね。そういうものが今まではなかったので嬉しいです。

Kuri Apartment 内装

藤井:今回の新型コロナの影響で、今はお客さんがかなり少なくなりました。宿のお客さんは7割ぐらいが海外の方だったので。旅行中もやってたんですが、宿とは別に翻訳の仕事をしています。翻訳はどこからでも仕事が受けられるので、宿は高松を拠点とした仕事として持ってます。
高橋:宿は2019年の10月から始めたんですけど、その時は結構お客さんも入っていて、8割ぐらいは埋まっていたが、それが全くなくなってしまった。
藤井:県をまたいでの移動制限もなくなりましたが、日本人の方も自粛でなかなか来られないので、数件ぐらいです。今は助成金などを申請しながら、現状をキープしている感じです。資金面はそこまで問題ないですが、もっと泊まりに来てくれる人が増えたら良いですね。

──やめないもの、として見つけた、アーティストとしての活動。

松田:もともと、アーティストとしての活動を始めるきっかけは何かあったんですか?
高橋:私は、智也(=藤井)に影響されたところが大きいかもしれないです。普通の高校を卒業して、大学の全然興味の無い経済学部に入ってしまい、全く楽しくなったんですけど(笑)。大学の時には、社会のレールに乗っかって、そのまま就職まで行くと思ってたんですよね。ただ、カナダに1年ぐらい留学する機会があって、そういうレールのようなものが取っ払われて。結構、自由にやってみても良いんじゃないかと思えました。
そこで、昔から好きだった絵に挑戦してみようと思って、デンマークのグラフィックデザインの学校に1年ぐらい通いました。その後に、オランダの学校に行って、日本に帰ってきて智也に出会いました。彼も写真を始めていて、その活動に触れたり、いろいろな作家の方の影響を受けながら、自分でちょっとずつやっていってますね。
気持ちの変化としては、カナダへの留学が大きいですけど。作家活動をやっていくということは、徐々にそちらに向かっていったような感じですね。ここ2、3年で拠点ができて、物が整って制作しやすくなって、ちょっとずつコンペとかに応募していってます。今年の春ぐらいに展示もしたいと思ってましたけど、コロナの影響で一旦止まっているので、どこかのタイミングでやりたいと思ってます。

高橋 ちかや noisy_eye 作品

松田:藤井さんは、どんなきっかけがあったんですか?
藤井:僕は最初は本を書くのが好きで。ただ、自分は文章を書くような細かい継続作業が肌に合っていなくて…。写真ならできるかなと思って始めたのがきっかけですね。
移動中でも写真は作品が残せるし自分には合ってるなと思いました。写真を撮影するだけじゃなく、スキャナーを使ってパソコン上で画像を作ったりとか、いろいろな方法を考えてます。普段、疑問に思ったことや社会的な問題を、作品としてどう落とし込めるか考えて、一つの作品として出来上がることに満足感がありました。それの連続で、どんどん作品をつくって継続してきたところがあります。
コンペに応募したり、作品がまとまったら展示したり。アーティスト活動だけで生活ができているわけではないけど、やりがいみたいなものはありますね。自分は飽き性なので、ここまで継続できるようなものがなかった。

藤井 智也 作品

高橋:やめないものが見つかった、という感じだよね。
藤井:そうそう。やめないものが見つかった、というのは消極的な理由かもしれないけど、そういう理由で続けていますね。どんどん、おもしろくなってきてます。
高橋:私は、そういうところも大事かなと思っていて。やりたいことを見つけるということが積極的な理由だとしたら、やりたくないことをやらないということも大事だと思っていて。
藤井:しんどいけど、楽しさもあるし、やりたくなる。今は他のことで生計を立てつつも、やりたいことを継続しています。それで、生計を立てられるように、シフトしていけたら良いんだろうけど、それだけで生活できる人というのはほんの一部だろうし。アーティストとしての活動も宿も、戦略を考えていくことは大事にしたいです。

Writer's Profile

Text:松田泰典(MOTIF Instagram
TERMINAL主宰。グラフィックデザイナー。
高松市塩上町にあるアートギャラリー「MOTIF(モチーフ)」も運営。
MOTIF Web